あれは俺が9歳になる少し前。
俺らの家族と周囲の人間関係が少しおかしいと気付き始めた頃。
弟を外へ追い遣ってから母と父に呼び出された。
俺らの家族と周囲の人間関係が少しおかしいと気付き始めた頃。
弟を外へ追い遣ってから母と父に呼び出された。
「……ジェイド、お前も気付いているんだろう?」
口を開くことを相当迷った父から紡ぎ出された言葉。
何のことかすぐにわかり、こくりと頷いてみせた。
「貴方は賢いから…」
俺の頭を撫でる母は哀しそうな顔をしているように見えた。
気のせいじゃない。
「きっともう抑えることはできない。明日にでも…押し寄せてくるだろう…」
何故、周囲の人たちとの関係がおかしいのかはわからなかった。
母も父も。
理由を話そうとしなかったから。
だから俺も知る必要はない。
「けれど…貴方たち兄弟だけでも生き延びなさい。何が何でも…」
「……みんなで、はダメなんだね…」
家族揃って逃げても。
いつかは必ず捕まってしまう。
「すまない…」
「ごめんなさい…」
あまりにも唐突な出来事に。
悲しみすら生まれなかった。
明日。
俺はきっと…泣けない。
翌日…雲ひとつ無い青空が広がっていた。
いつ宣告されるかわからないままに。
父から医学を教わっていた。
「……だから今日は家にいる」
外へ遊びに行って来いという母の言葉に対して愚図る弟。
昨日と同じ哀しい眼で俺を見る母。
チラッと父の顔を窺うと…同じような哀しみの色。
(あぁ、今なのか…)
すっと立ち上がったその時に。
父から分厚い本を渡される。
ありがとう、その言葉は最後まで口から出ることはなかったけれど。
「…いいから、行くぞ」
「えっ、ちょっとっ……」
「ジェイド…よろしくね……」
弟の手を無理矢理引っ張って。
呟かれた母の最後の言葉は、ただ背中で流れるだけだった。
村がよく見える山の上。
一番大きな樹の下に腰掛けて。
これから弟になんて説明しようかとぼんやり考える。
弟は木々を飛び回ることに飽きたのか。
突然俺の目の前に飛び降りる。
「何でここに来たんだ?昨日だって、俺と一緒にきたじゃんか」
「………」
(何て言えばいいんだ?)
(どんな言葉をかけたって、きっとコイツは嘆くに決まってる)
弟から見たら。
変な顔をしているんだろうけど。
他にどんな顔をしていいのかわからない。
「何か…理由でもあるのか?」
「……そうだねぇ…お前にはまだわからないよー」
俺がこんなことを考えているなんて知りもしないで。
そんな風に思ったら…頭を撫でたい衝動に駆られた。
「子ども扱いするなっ!」
「そんなこと言ったって、お前はまだ子どもでしょー?」
「兄さんだって、俺と2歳しか違わないじゃないか!」
「んー…まぁ、そうだけど……そろそろかなぁ」
「何が…っ!?」
子ども扱いに怒った弟が俺の手を振り払ったのと同時に。
聞こえてきた日常では考えられない音。
ただの爆発ならいつも父の実験が失敗した時によく聞くけど。
いつもと異なるのは。
裏山から見える俺の家から黒い煙が吹き上がり。
赤々と周りを照らしていたこと。
「あれ…俺たちの家じゃないか! 兄さん、母さんたちが……」
「ココを動いちゃダメだよ」
「何で!? 今行けばまだ間に合うかもしれな…」
「ダメだと言ったらダメだ」
コイツにはまだ知らなくていい世界。
後で必ず知ることになろうとも。
今はまだ見せてはいけない。
そう思って腕をしっかり掴んだのに。
「……兄さんが行かないなら、俺が行くからなっ」
「おいっ!」
小さな弟は。
力一杯腕を振り切って家へと走り出した。
木材が燻っている独特の臭いと僅かな煙だけが残っている俺たちの家。
弟は必死に母や父の安否を聞いているけど。
ニヤニヤした顔で答えが返ってくるのみ。
止めるための言葉も。
慰めるための言葉も。
俺の中には存在しなかった。
弟は家の中のことが気になったらしく。
覚束無い足取りで家の中へと入っていった。
俺もその後に続いた。
「……え? …うそ、だろ? あ……」
「……」
父と母。
丁度、朝二人が居たその場所に。
既に顔を判別することが出来ない程に全身が焼け焦げていた。
「……これは…仕方のないことなんだよ…」
「ぅ…うわあぁぁぁあぁぁっっ!!」
投げ掛ける言葉も見つからず。
ありのままに伝えて…弟は発狂した。
それでもやっぱり俺は涙も出なくて。
だけど哀しい様な気がして。
そっと弟を抱きしめた。
泣けないことへの贖罪であるかのように…
口を開くことを相当迷った父から紡ぎ出された言葉。
何のことかすぐにわかり、こくりと頷いてみせた。
「貴方は賢いから…」
俺の頭を撫でる母は哀しそうな顔をしているように見えた。
気のせいじゃない。
「きっともう抑えることはできない。明日にでも…押し寄せてくるだろう…」
何故、周囲の人たちとの関係がおかしいのかはわからなかった。
母も父も。
理由を話そうとしなかったから。
だから俺も知る必要はない。
「けれど…貴方たち兄弟だけでも生き延びなさい。何が何でも…」
「……みんなで、はダメなんだね…」
家族揃って逃げても。
いつかは必ず捕まってしまう。
「すまない…」
「ごめんなさい…」
あまりにも唐突な出来事に。
悲しみすら生まれなかった。
明日。
俺はきっと…泣けない。
翌日…雲ひとつ無い青空が広がっていた。
いつ宣告されるかわからないままに。
父から医学を教わっていた。
「……だから今日は家にいる」
外へ遊びに行って来いという母の言葉に対して愚図る弟。
昨日と同じ哀しい眼で俺を見る母。
チラッと父の顔を窺うと…同じような哀しみの色。
(あぁ、今なのか…)
すっと立ち上がったその時に。
父から分厚い本を渡される。
ありがとう、その言葉は最後まで口から出ることはなかったけれど。
「…いいから、行くぞ」
「えっ、ちょっとっ……」
「ジェイド…よろしくね……」
弟の手を無理矢理引っ張って。
呟かれた母の最後の言葉は、ただ背中で流れるだけだった。
村がよく見える山の上。
一番大きな樹の下に腰掛けて。
これから弟になんて説明しようかとぼんやり考える。
弟は木々を飛び回ることに飽きたのか。
突然俺の目の前に飛び降りる。
「何でここに来たんだ?昨日だって、俺と一緒にきたじゃんか」
「………」
(何て言えばいいんだ?)
(どんな言葉をかけたって、きっとコイツは嘆くに決まってる)
弟から見たら。
変な顔をしているんだろうけど。
他にどんな顔をしていいのかわからない。
「何か…理由でもあるのか?」
「……そうだねぇ…お前にはまだわからないよー」
俺がこんなことを考えているなんて知りもしないで。
そんな風に思ったら…頭を撫でたい衝動に駆られた。
「子ども扱いするなっ!」
「そんなこと言ったって、お前はまだ子どもでしょー?」
「兄さんだって、俺と2歳しか違わないじゃないか!」
「んー…まぁ、そうだけど……そろそろかなぁ」
「何が…っ!?」
子ども扱いに怒った弟が俺の手を振り払ったのと同時に。
聞こえてきた日常では考えられない音。
ただの爆発ならいつも父の実験が失敗した時によく聞くけど。
いつもと異なるのは。
裏山から見える俺の家から黒い煙が吹き上がり。
赤々と周りを照らしていたこと。
「あれ…俺たちの家じゃないか! 兄さん、母さんたちが……」
「ココを動いちゃダメだよ」
「何で!? 今行けばまだ間に合うかもしれな…」
「ダメだと言ったらダメだ」
コイツにはまだ知らなくていい世界。
後で必ず知ることになろうとも。
今はまだ見せてはいけない。
そう思って腕をしっかり掴んだのに。
「……兄さんが行かないなら、俺が行くからなっ」
「おいっ!」
小さな弟は。
力一杯腕を振り切って家へと走り出した。
木材が燻っている独特の臭いと僅かな煙だけが残っている俺たちの家。
弟は必死に母や父の安否を聞いているけど。
ニヤニヤした顔で答えが返ってくるのみ。
止めるための言葉も。
慰めるための言葉も。
俺の中には存在しなかった。
弟は家の中のことが気になったらしく。
覚束無い足取りで家の中へと入っていった。
俺もその後に続いた。
「……え? …うそ、だろ? あ……」
「……」
父と母。
丁度、朝二人が居たその場所に。
既に顔を判別することが出来ない程に全身が焼け焦げていた。
「……これは…仕方のないことなんだよ…」
「ぅ…うわあぁぁぁあぁぁっっ!!」
投げ掛ける言葉も見つからず。
ありのままに伝えて…弟は発狂した。
それでもやっぱり俺は涙も出なくて。
だけど哀しい様な気がして。
そっと弟を抱きしめた。
泣けないことへの贖罪であるかのように…
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